『紫翼のジーナ』５－⑤話
原案：はじめあき
作者：しゅーひ

突然、腕の中のリンが眩い光を放ち光りだした。
ジーナは戸惑いながらも記憶が少し蘇った。

「こ･･･この光は！そうだ、あの時のメニア族の魔導士の時と同じ光。ま、まさか！」

しかしながら突然、ジーナが光りだしたのをみたホルンは何事かと動きを止めた。
「ジーナの奴、どんな技をつかってるんだ？こんなのは今まで見たことがない！ちきしょう、面倒になる前にカタをつける！」
ホルンは短期決戦を腹に決め、具現化した四神の獣に命令を与える。

「四神連吼！」

炎虎、炎竜、炎亀、そして朱雀の４体はまさに四方から囲むようにジーナ達に向かって突進を仕掛けた。
地面を、そして空気を焼きながら火の脅威が迫ってきた。
あたり一面が真っ赤に染まり、なにもかもを焼き尽くしていく。その炎の中心がジーナに当たり爆発しそうなとき

「セイレーンの竪琴！」

ジーナの声とは少し違う声が響く。男と女が同時に同じ言葉を発したような声と一緒に大量の水滴が当たり一面を覆いつくした。
瞬間的な豪雨が湖のほとり一体に降り注いだ。その水量は一面の火の海をあっという間に鎮火させ、更に４体の獣を無に返すほどであった。

火の気が全くなくなると、豪雨のような水は一瞬で消え去り、爽やかな日差しが何事も無かったように振り沿いできた。
ずぶぬれになったホルンは何が起こったのか理解できないまま眼前にある光の球体を眺めた。

すると光の球体がいっきに破裂し、中から『両翼』となったジーナが現れた。リンの姿はどこにもない。
現れたジーナはいつものように傍若無人･･･ではなく、自分の両手を見ながら少し狼狽していた。

「なんだ？今の技は。いきなり頭に浮かんだぞ？」

どうやら自分でも何が起こったのかわかっていないジーナであったが、この好気を見逃すようなジーナではない。
「まあいい･･･」と呟き、ゆっくりとホルンの方へ向かって語りかけた。

「ホルン、お前の必殺技はもう俺には効かない。どうする？今なら泣いて謝れば許してやってもいいんだぞ？」

ずぶぬれでぴったりと額にくっついた前髪を掻き分けてホルンが答える。

「ジーナ！自分でもわかってない技を使ってこのホルンを倒せるかよ！」

ホルンはまた違う炎の具現化をしようと手をかざした。大きな鹿がホルンの前に現れる。
しかし、ジーナは哀れみとも思える口調で諭すように言った。

「さっきも言ったろう？お前の技は効かないって。俺の技は俺自身でちゃんと理解しているさ」
そして胸の前あたりで両手をかざし技を詠唱した。

「セイレーンの歌声」

ジーナの両手に透明な水球が出現し、その水球がうねりながら姿を変え、先が尖った円錐状のモノになっていく。言うならば水筍と形容できるだろうか。

バシュ！っという音がして、水筍は空気を切り裂きながら炎の鹿に命中し、鹿は爆音とも鳴き声ともとれるような音と一緒に消え去った。

「くっ！」

ホルンは次の炎を出そうとしたが、すでに目前に水筍が迫っており、避けることも防御することもできなかった。
ガスンと鈍重な音がして、ホルンは前のめりに倒れこんだ。

「峰打ち程度で許しておいてやる」とジーナはフンと鼻を鳴らしながら言った。

先ほどの戦いは嘘のような静けさが湖の畔に戻った。
しかし、ジーナは表情が硬いまま言った。

「どうもこの姿になると、五感が更に向上するらしいな。オイ、そこで隠れている奴。出て来い」
ジーナの後方にある木々の影から、男がのっそりと現れた。

「気配は完全に消したと思ったんだがな。いやいやスゴイ」
「なんだ、お前か･･･何か前と雰囲気が違う気がするが･･･」とジーナは安堵とも戸惑いとも取れる表情になる。

「４日ぶりかね。ジーナと言ったかな。翼人族の翼について勉強はしてきたか？」

現れた男はリンの師匠であるクロストであった。
そして、ジーナに向かって

「まぁ、立ち話もなんだからウチに来なさい。教えなければならない事もある」
と、ジーナの答えを聞く前に歩き出した。