Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


『Not guilty but…』(10)

『Not guilty but not innocent』(承前)

「苦手なものは先にやっつけるタイプなんだ?」
 ランチセットのサラダに入っていたピーマンを片付けていたらそう訊ねられた。
「……何でそう思う?」
 ピーマンを呑み下して訊き返す。そういや一緒に食事をするのは初めてかもしれない。少なくとも《俺》は。
「来たサラダ見て、いやそうな顔しながらピーマンだけ拾って、いやそうな顔のまま噛まずに丸のみしたみたいだから。……いつもなら真っ先にプチトマトに手を出すのに」
 いつも、というほどしょっちゅう一緒に食事してるのか。
「ガキなんで好き嫌いがあるのは大目に見てほしいな」
「それでも残さないだけえらい。躾の賜物か?」
「……まあそんなとこ、かな」
 躾に厳しいばあさまにどんな躾をされたか、を思い出しそうになって、慌てて記憶に蓋をする。メシがまずくなるような事は思い出さないに限る。
「好きな食べ物って、共通してるのか?」
「……さあ?でも何でそんな事訊く?」
「あー……いや、特に理由はない」
 そうごまかす手元を見ていると、不自然にプチトマトをよけている。好きなものは最後に、というタイプの奴もいるが、そういうよけ方ではない。
「トマトが苦手なら、そう白状すれば、退治してやらない事もない」
 相手の手がぎくりと止まる。
「何のことかな?」
「いや、気のせいなら別にいい。たかがプチトマト一個で鬼の首をとったように喜ぶなんて大人気ない事、したくないし」
「おとなげ……」
 そうつぶやくと、おもむろにフォークでプチトマトを突き刺す。
 口に放りこんだところでケータイがマナーモードで着信を知らせる。テーブルの上のは静かにしているから、どうやら向こうのケータイのようだ。
 口の中のプチトマトをアイスコーヒーで流し込みながら電話に出る。
 はい、ああ、うん、といった最低限の受け答えで通話を終わる。
「……仕事?」
 受け答えの口調がぞんざいだったので、相手が誰だったのか訊いてみた。
「いや、……家族」
 そういや、「メシの最中なんで、後からかけ直す」って言って切ってたっけ。
 ふーん、と応えて、通話中に届いた食事を撮った写真をメールに取り込んで送信し、食事に取り掛かる。
「……あのさ」
 気まずそうに押し黙ってハンバーグにナイフを入れる相手に話しかける。
「こっちに『家族』って呼べる係累がいないからって、気を使う事ないよ?ある意味、ものすごーく身近にいるんだし」
 相手が顔をあげる。
「……別に、気を使って電話切った訳じゃない。話し始めると長いんだ、あの人。そのくせ肝心な用件は三十分くらい話さないと出てこないんだ。最後まで聞いてたらメシが冷める。…それに電池も残り少なかったしな」
「ああ。そういうオバちゃん、たまにいるよね。会話に飢えてるのかな?」
 当たり障りのない内容の会話をポツリポツリとやり取りする。
 向こう側としては黙っていてくれた方が妄想に浸れる(というより、現実逃避、というべきか?)んだろうが、じっと見つめられると、こっちが気づまりだ。
「十二時四十八分か……」
 先にランチを食べ終えた向こうがテーブルの上のケータイを覗き込んでつぶやいた。続いて、そろそろ、と唇が動く。
「……結果って、向こうから連絡来るの?」
「いや……明らかな他殺の徴候がなければ特に向こうからは連絡しない、と言ってた」
 それはどうも、だ。
 パスタの残りをアイスコーヒーで流し込む。
「それじゃ、気の進まない作業は先に済ませるとしますか」
 そうつぶやいて席を立つ。
「……え?まだ結果も判ってないのに?気乗りしないんだったら、無理する事ないんだぞ?」
 テーブルの向こう側も伝票を取りながら席を立つ。
「気が進まないけど、ちょっと引っかかってる事があって。後顧の憂いは絶っとかないと」
「後顧の憂い?」
「……水没ケータイの件」
 意味不明、という顔をして支払いを済ませた相手にランチ代六百九十円を手渡す。
「ランチ代くらい、奢るぞ」
「朝早くから迷惑かけたし、迷惑料も込み、って事で。それより、ビデオカメラ、ある?」
「……ビデオ?」
「あまり何回も《サルベージ》したくないからさ、記録、撮っときたい」
 車に乗り込みながら説明する。
「出来れば、アナログの。デジタルのだと『編集された』って思われかねないから」
「……さすがに、それは心当たりがないな」
「じゃあ、電波時計。大きめの。一緒に映し込んどく用に」
「……普通の時計じゃいけない理由は?」
「えーと……一番正確かな、って」
「こっちが提出した資料が正確か否かは、向こうに任せればいいだろ?……そんな神経質な奴だとは知らなかったぞ」
 そう言って手を伸ばしてきて頭をぐしゃっとやる。
「んじゃ、電波時計、買いに行くとするか」
 そう宣言して車を出す。なんだかんだ言っても、やっぱり甘やかされてるな、と思う。

#日記広場:自作小説

アバター
2010/12/04 01:15
ここまで読んでやっと主人公が《俺》だったと分かりました。
…ああ、勿体ない読み方をしてしまった。^^;
たぶん狙いがあってやってると思うんですけど、主人公以外は名前を付けた方が
良いかもしれないですね…。
各キャラクターのイメージがどうも掴みにくい気がします。
まあ、私が頭悪いからなんですけど…。^^;
アバター
2010/11/19 20:03
とりあえず、まだラブラブバカップルは続くんですねw



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