『紫翼のジーナ』３－①話
原案：はじめあき
作者：しゅーひ

なんという事だ。早急にシアナ族の湖に戻らないといけない。
あそこは人が少ないとはいえ、まったくいない訳ではないのだ。
取り戻さなければ。取り返しがつかなくなる前に。

クロストとリンの家を離れて自宅に戻ったジーナは、翼人族の翼について知るために、学院を尋ねた。
傲慢で他人を見下す性格であるジーナには仲の良い友人などいない。

自分は特別だと思っているし、仲間なんていらない。
信じられるのは自分だけだと。自分の力を信じ、己の力のみで突き進むのが強い人間だ。
今でもその信念は変わらない。

そんなジーナが唯一、心を開いているのが学院で魔法学について教鞭をふるっているレイオトール先生だった。
ジーナは、レイオトール先生との会話を思い出していた。

「翼人族の翼について知りたい？」

不思議な顔をした先生だったが、ジーナの真剣な眼差しをみて、言った。

「わかった。では基本的な事からおさらいもかねて説明しよう。知っていることもあるかもしれないが、まぁ聞いていなさい」

先生の説明を更に要約するとこうだ。
基本的に翼人族はみな黒い翼をもっている。
翼人族は、思考しただけで〈念〉の波動を相手にぶつける事ができる。
〈念）の波動の強弱はあるがこの不可視の波動とノーモーションでの技の発動こそが最大の攻撃利点である。

「この点はキミも良く知ってるね？」と先生は付け足した。

但し、この技だけでは相手を確実に倒すことは難しいので当然魔法も習う必要がある。
しかしながら、翼人族は魔法に対し相性の良い種族ではなく、魔法を使いこなすのは不得意な人種といえる。

「魔法の基本元素は〈火〉、〈水〉、〈雷〉、〈風〉、〈地〉であるのは習ったね？まぁここで魔法学については横においておこう」

黒い翼が基本の翼人族だが、稀に色付きで生まれてくるものがいる。
色にはちゃんと意味があり、赤い翼なら生まれながらに〈火〉の属性をもつ翼人族になる。

つまり、〈念〉の波動攻撃以外に〈火〉の魔法攻撃が使えるというわけだ。
このようなものを総じて有色種と言う。

「ジーナ、君もその有色種ってわけだな」と微笑みながら先生はジーナを見た。

赤翼は〈火〉、青翼は〈水〉、黄翼は〈雷〉、緑翼は〈風〉、灰翼は〈地〉これが有色種の基本。
そして、有色種でも更に稀なのがジーナのような翼人族となる。

「君のは紫翼、つまり〈火〉と〈水〉が使える翼人族だ。まぁ青の方が強いから〈水〉の魔法の方が得意だったね」

このように二色、三色の色が交じり合った翼人族も存在する。
文献では真っ白な翼を持つものもいたそうだ。ただ、使える魔法は氷を使っていたそうだ。氷の魔法は〈水〉の上位魔法だが、珍しい魔法ではない。

「まぁ、色がそのまま必ず魔法特性とつながっている訳ではないという事例だが、これは特殊だろう」

あいかわらず先生はにこやかに説明してくれた。
翼人族が技を発動させるためには、必ず翼を出していなければならない。
この翼は飛ぶ能力ではなく、力の象徴にすぎない。
しかし、この翼がなにかしらの影響で無くなってしまうと、翼人族の力も発動しなくなる。

翼自体には防御能力も攻撃能力もないので、軽い攻撃ですぐ翼は折れたり取れたりしてしまう。
弱点を晒しながら戦わなければならないのが翼人族の戦闘スタイルとなっており、長所と短所が表裏一体となっている。

「僕達は攻撃のスピードは最速だが、最強の種族ではないんだよ」

翼には痛点はなく、多少の攻撃で傷ついても回復する。
しかし、両翼に一対『核羽』といわれる他の羽よりふた周りほど大きな羽がある。
この羽こそが実際の力の源といっても過言ではない。

もちろん、この核羽がなくなっても4日もすれば再生する。
しかしこの核羽が自分の体からはずれた場合、新しい核羽が再生するまで必ず自分の手で、最悪 翼人族が持っていないといけない。

もし、核羽を他種族が触れてしまうと、その核羽は触れた者の体に吸収されてしまう。
核羽が吸収されてしまうと、５日たっても羽が再生しない。再生しないということは力が使えない事を意味する。

「核羽は力の源だからね、他の種族が吸収するとどのような影響がでるのか判らない。だから気をつけないといけない」

他の種族に取られた核羽を取り戻す方法は、取り込んだ者の心臓を食らうことらしい。

「実はこれは言い伝えに過ぎないんだ。実際に試した文献が残っていない」

だから、力は絶対に無くしてはいけないよ？はっはっは。と先生は笑った。
しかし、ジーナは笑うことは出来なかった。