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■近代文藝之研究|研究|美學と生の興味(2)

■近代文藝之研究|研究|美學と生の興味|上 生の哲理|一 (2)

今假りに宇宙間一切の現象を地から天に架する梯子と見れば、之れを上から順に降つて來ると、唯々存在といふ一語の礎に達する。又之れを下から昇つて行けば、生若しくは意識的生活といふ頂點に達する。元來我等人間は、知らず識らずのあひだに己が意識の存在といふことを第一必至の前提として、すべての事を考へてゐる。我等が一たび意識の眼を閉ぢれば、有無の詮議は悉く絶滅してしまふ。意識の第一有を豫定した後でなくては、萬象の有無は考へられぬ。此の意味から見れば、宇宙は意識以内に存する。併しながら客觀的にいへば、此の論ではまだ十分でない。我れ一個の意識が亡びた後にも、他個の意識が存してゐて、我れと同じく萬象を其の中に描いてゐるのであらうとは、我等の常識的信仰である。すなはち我れ一個の意識が亡びれば、萬象も共に滅するとは、此の信仰が言はさない。更に一歩を讓つて、あらゆる意識的生活が此の世から消滅したらどうかといふに、此所でも肉體だけは土となり水となつて殘らうとは、同じく常識の經驗が類推的に得てゐる信仰である。此の理を順次に推し下すときは、土となり水となつたものが、よし其の土たり水たる形は失ふとも、科學者のいはゆる、元素となつて存しやう、元素は更に幾たびか其の形を亡ぼして原子より原子に分解し行くとも、結局何等かの形で存在といふ一語の意味をば失ふまい。永劫にわたつて存在といふ一義だけは決して亡びぬといふのが、此の梯子の最底邊の信仰である。而して此の存在が現象といふ明かな状態で我等の意識の前に展開し來たる次第は、無機界から有機界、動植物から人間といふ自然哲學の上の順序であらう。頂點は即ち人間であつて、其の特徴は意識的生活であること言ふまでもない。



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*註1:達する
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註2:又之れを
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg

*註3:意識・識らず・常識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg

*註4:前提・前に
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註5:詮議
「詮」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen.jpg

*註6:絶滅
「絶」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg

*註7:以内
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。

*註8:併しながら
「併」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shikashi.jpg

*註9:十分・分解
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註10:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

*註11:消滅
「消」の旧字体。「ナオガシラ」が「小」。

*註12:此所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註13:順次・次第
「次」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ji_tsugi.jpg

*註14:科學者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註15:状態
「状」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyou.jpg

(コメント欄へつづく)

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2014/09/14 09:14
(註:つづき)
*註16:特徴
「徴」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/chyto_mesu.jpg



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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

(2014/05/17/初校|2014/09/14/リンク先訂正)



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