Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


『Not guilty but…』(4)

『Not guilty but not innocent』(承前)

「無かった。どうやら現金は裸で持ち歩く主義らしい。クレジットカードの類も無し」
「ケータイは?」
「あったが、どうやら直近に水没した形跡がある。まあ、最寄りの営業所が開き次第、シリアルナンバーから持ち主を割り出す事はできるだろうが、本人のものだと限った訳でもないし。……ああ、もしかしたらあんたの、って可能性もあるか。昨夜の事を覚えてないっていうのなら」
「見せていただけますか?」
「見せてもいいが…一応、証拠品だからな。持って帰る訳にはいかないと思うぞ」
「…だったら結構です。…あ、もしかしたら、私のバッグとか、服も返してもらえなかったりしますか?」
「場合によっては」
「……なんだか、正直に通報なんかしなきゃよかったような気がしてきました」
 思いっきり疑われてるみたいだし。
 ……無理もない。自分でも『やってない』という自信があるとは言い切れないし。
「…ああ、気を悪くしたならすみませんね。通報には感謝してます。でも、一応『変死』なのでね。…と、そういや『主治医』の方を待たせてるんだった」
 そう言ってドアのところで待っていた警官に合図する、
 制服警官に連れられて、見覚えのある長身が部屋に入ってきた時、不覚にも涙が滲み出た。そんなに頼っていたつもりはないんだが。
 寝癖のついたままの髪に囲まれた童顔が、気遣わしげにこちらの表情を窺いつつ、スーツの二人に向かって名乗る。紺スーツの方にはぬかりなく名刺を差し出す。
「脳神経科・リハビリテーション科?…そのお嬢さんは脳卒中でもやったんですか?」
 名刺に眼を落した刑事が怪訝そうに訊ねる。主治医と聞いてどんな診療科を想像していたんだろう?…それに、二行目には『精神科・心療内科』とも書いてあるはずだ。
「……はい?」
 さりげなく前に割り込んだ彼の袖を引っ張って注意を促す。
「センセイの事、主治医だって言ったから」
 振り向いた顔が困ったように歪む。
「…今は、違う」
 困った顔のまま、そうささやき返してくる。
「そう?いつのまに?」
「…《君たち》の事に関しては、もっとベテランに引き継いでもらった」
「でも、担当の一人ではあるんでしょ?」
「……まあ、そうだけど」
 ひとつ溜め息をついて、紺スーツの方に向き直る。
「病気ではなくて、事故です。九年…いや、丸十年前になりますか。脳挫傷で」
「脳挫傷。なるほど、確かにこのお歳でしたらその方がありそうですね。それにしては目覚ましい回復具合で」
「いえ…今もまだいくらか後遺症が残っていまして」
「昨夜の事を覚えていない、というのも、その『後遺症』ですか?」
「…おそらくは」
 紺スーツの顔がちょっと曇る。
「記憶障害はしばしばおこるので、行動の記録をとるために携帯電話を常に持っているはずなんですが…失くした、と連絡があって」
「行動の記録?」
「正確に言うと、携帯電話のありかの記録、ですが。電源が入っている間、一定時間ごとに自分の位置情報をサービスサイトのサーバーに送信するんです。で、そのサーバーにアクセスして、電話番号とパスワードを入力すると、ケータイの移動した履歴が判る、と」
「つまり、このお嬢さんが、肌身離さずケータイを持っている限り、過去何時間かの居所が判る、という事ですか?」
「えーと…おおむね、そういう事です」
 ケータイ本体にも写真とかメモとか入ってるんだが。
「それで、どこにあるか判った?」
 再び袖を引く。
「ああ。昨夜の八時ごろから、駅周辺にある。遺失物として駅なり交番なりに届けられているか、どこかのコインロッカーの中か。半径100メートル前後の誤差があるんでそれ以上は絞れないが」
 …だとすると、水没したのは、死んだ男の、か。
「なるほど。そのお嬢さんが妙に携帯電話にこだわっているように見えたのは、そういう訳か」
 なるほど、とは言うが…本当に解っているんだろうか?
「ところでその記録を拝見させてはいただけないでしょうか?」
「えーと…」
 ちらりとこちらを伺う。
「令状があれば。過去何時間か、どころか、過去何カ月かの記録が残っていますから。今のところそこまで開示する必要はないでしょう?」
「……なるほど。奴さんと接触した時、既にケータイを持っていなかったとしたら調べる意味は薄いな。……ところで、その紙袋の中身は?」
「…ああ、着替えです。これも頼まれたので」
 そう言って安売り紳士服店の紙袋をちょっと持ち上げる。
「着替え?」
「服を押収したんだったら、どんな状態になってるか解ると思いますが。……あんな服、真昼間に着て歩けません。上に羽織るものがあるならまだしも」
「おうしゅう?」
「いや、押収、というのは言葉のあやで…死因と関係がない、と判ればお持ち帰りいただいても構わないんですが…」
 持って帰りたくはないんだけど。

#日記広場:自作小説

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2010/12/01 14:20
ああ~、脳挫傷ですか!
それで一時記憶が残りにくくなってるんですね、主人公は。
「メメント」 って映画があったんですけど、その主人公に少し似てますね~。
その映画の主人公は、暴漢に襲われて脳障害を負って、新しい記憶が10分しか
記憶できないっていう障害でした。
実際の症例でも結構あるらしいですね。
こんな障害負ったら生活に困る…。 (T T;|||)

しかし警察の取り調べの描写、凄く細かいですね~!
取材とかしたんですか、もしかして?
ホントにこんな取り調べされそうな感じです。 スゴイ!^^



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