Nicotto Town



龍を守りしものたち!

氷雪がミディアに叩きつけられる。
熊よりも一回りは大きい青龍の吐く息が辺りを凍らせながら、少女を追い詰めていく。
(でも、負けられない)
やっと一人前のドラゴンライダーになれるのだ、この試練を乗り越えたのなら。
ゆるやかな金髪を振り払い、正面を見据える。
立ち塞がった親の向こうに一匹の仔竜の姿が見えた。
仔猫ほどの大きさの、頼りなげな風情の。

龍は魔法の源、龍は世界のバランス。
龍を狩り、自分の力に利用するものから守らなければならない。
龍を守る事が、この世界を守る事になるのだから。

ドラゴンライダーが振るうのは、己の精神力を伝えるドラゴンバスターだ。
内面がそのまま力に変換される。
そして一番最初にその剣を使う相手は、守るべき龍。
尻尾を切り落とすのだ、それが力量を見極める手段となる。
弱いものに龍は守れない。

青龍は仔龍を育てていた。
託す相手を待ちながら。
そして今日、やっと現れた。
だが、まだ年若い人間で正直、落胆していた。
あどけなさは鎧を着込んだところで隠せない。
大事な子供を、同じ子供になど渡せない。
容赦なく凍てつく息を吐き続ける。

吹き付ける氷の息の合間から、仔竜がこちらを見つめていた。
目が合った瞬間、ミディアの内側から気力が湧き出す。
(あの仔を私が守るんだ!)
吐く息が途切れた一瞬の隙を逃さず、ミディアは走り出す。
凍った地面を利用して龍の脇を滑り抜け、首をめぐらす龍から届かない場所に出る。
体勢を変えられる前に、尻尾へと向かう。
その間にもミディアは仔竜の視線を感じていた。
不安と、心配りと、期待。
(少しでも気に掛けてもらえているのなら、絶対諦めない)
龍も大人しく待ってはいない、長い尾の射程範囲内に少女がいるのだ。
振りあげた尻尾を、ミディアへ打ち下ろす。
振ってくる尻尾に、怖気を振り払い、剣を構えて自ら飛び込んだ。
勢いを付けて切り込む。

固い鱗の割れる感触はほんの一瞬、続いて肉と軟骨の切り裂かれる手応え。
鮮血を浴び、切り落とした尻尾は地面に転がる。
瞬く間に切られた先端は再生していく。
知識では知っていたが、実際見るまではどこか不安を感じていたので、胸をなでおろす。
無意識に顔を手の甲で拭ったら、真っ赤になっていて、ぎょっとした。
龍の血を浴びた剣と自身は、力と加護が与えられる。
同時にこの瞬間ミディアは、一人前のドラゴンライダーの資格を得たのだ。

親龍の前に進み出てミディアは請う。
「私にあの仔を託して下さい」
親が子を人間に預けるメリットは、一つは次の子育てを始められる事。
もう一つは、強い精神力の者と一緒にいることで龍自身も強く育つ事。
そして、龍の生命力を使い捨てにする者から守られる事だ。
血で濡らした髪を払いのけ、ミディアはこれも血にまみれた剣を龍の前に差し出す。
「この剣はあの子を守る為にあります」
仔龍が、切られた尻尾とミディアを見比べていた。
「私はあの子が成龍になるまで守り続けることを誓います」

仔龍が羽根を広げて飛び立つ。
頭上が陰ったと思ったら、頭に重みを感じた。
親が小さく鳴くと、仔龍も同じように応えた。
剣を放して、恐るおそる両手を頭上に伸ばし、手探りで仔龍を掴んだ。
両手で包んで目の前に下ろす。
仔龍はされるがままになっている。
「彼方を守らせて下さい」
仔龍は、ゆらゆらと尻尾を揺らし、羽根をぱたつかせている。
ただ、ミディアを見つめる双眸には信頼が満ちていた。
(ああ、だから私は頑張れたんだ)
ずっとミディアを見つめていた、漆黒の瞳。
それは、すでに彼女を認めていたからなのだ。
彼女は仔龍の期待に応えられたのだ。

龍は言葉と言うものを持たない。
直接、精神感応で伝え合う。
親龍の思念が概念となって感じられた。
無理に言葉にするのなら「よろしく」といったところか。
「ありがとうございます」
人間は感情を言葉にせずにはいられない。

仔龍からも親と同様の思念が感じられた。
「ミディアです、よろしくお願いします」
続けて
「彼方の名前を教えて?」
暖かく、柔らかな感情がミディアに流れ込んできた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

お終い

黒ニコガチャ第9弾より着想

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2010/11/01 23:08
→せつのわかさん
読んでくれてありがとうございますw
読みやすいものーって考えて、イラストあるし黒ガチャ題材にしたらいいかなって安直にw

大抵ラストを先に考えて話を書きます、字数制限あるから。
なのでラストありきでw

小説っていうか、こういうの書くのは好きなんで、月に一話書ければいいかなーと。
アバター
2010/11/01 00:06
そうですよね。ベビードラゴンのことがすぐ頭に浮かびました。ミディアはきっと勇敢なドラゴンライダーになれるでしょうね。終わり方がいつもステキですね。
Ritsuさんはs小説を書かれるのが好きなのですね^^
また、読ませてくださいね。



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