龍を守りしものたち!
- カテゴリ:自作小説
- 2010/10/31 21:34:46
氷雪がミディアに叩きつけられる。
熊よりも一回りは大きい青龍の吐く息が辺りを凍らせながら、少女を追い詰めていく。
(でも、負けられない)
やっと一人前のドラゴンライダーになれるのだ、この試練を乗り越えたのなら。
ゆるやかな金髪を振り払い、正面を見据える。
立ち塞がった親の向こうに一匹の仔竜の姿が見えた。
仔猫ほどの大きさの、頼りなげな風情の。
龍は魔法の源、龍は世界のバランス。
龍を狩り、自分の力に利用するものから守らなければならない。
龍を守る事が、この世界を守る事になるのだから。
ドラゴンライダーが振るうのは、己の精神力を伝えるドラゴンバスターだ。
内面がそのまま力に変換される。
そして一番最初にその剣を使う相手は、守るべき龍。
尻尾を切り落とすのだ、それが力量を見極める手段となる。
弱いものに龍は守れない。
青龍は仔龍を育てていた。
託す相手を待ちながら。
そして今日、やっと現れた。
だが、まだ年若い人間で正直、落胆していた。
あどけなさは鎧を着込んだところで隠せない。
大事な子供を、同じ子供になど渡せない。
容赦なく凍てつく息を吐き続ける。
吹き付ける氷の息の合間から、仔竜がこちらを見つめていた。
目が合った瞬間、ミディアの内側から気力が湧き出す。
(あの仔を私が守るんだ!)
吐く息が途切れた一瞬の隙を逃さず、ミディアは走り出す。
凍った地面を利用して龍の脇を滑り抜け、首をめぐらす龍から届かない場所に出る。
体勢を変えられる前に、尻尾へと向かう。
その間にもミディアは仔竜の視線を感じていた。
不安と、心配りと、期待。
(少しでも気に掛けてもらえているのなら、絶対諦めない)
龍も大人しく待ってはいない、長い尾の射程範囲内に少女がいるのだ。
振りあげた尻尾を、ミディアへ打ち下ろす。
振ってくる尻尾に、怖気を振り払い、剣を構えて自ら飛び込んだ。
勢いを付けて切り込む。
固い鱗の割れる感触はほんの一瞬、続いて肉と軟骨の切り裂かれる手応え。
鮮血を浴び、切り落とした尻尾は地面に転がる。
瞬く間に切られた先端は再生していく。
知識では知っていたが、実際見るまではどこか不安を感じていたので、胸をなでおろす。
無意識に顔を手の甲で拭ったら、真っ赤になっていて、ぎょっとした。
龍の血を浴びた剣と自身は、力と加護が与えられる。
同時にこの瞬間ミディアは、一人前のドラゴンライダーの資格を得たのだ。
親龍の前に進み出てミディアは請う。
「私にあの仔を託して下さい」
親が子を人間に預けるメリットは、一つは次の子育てを始められる事。
もう一つは、強い精神力の者と一緒にいることで龍自身も強く育つ事。
そして、龍の生命力を使い捨てにする者から守られる事だ。
血で濡らした髪を払いのけ、ミディアはこれも血にまみれた剣を龍の前に差し出す。
「この剣はあの子を守る為にあります」
仔龍が、切られた尻尾とミディアを見比べていた。
「私はあの子が成龍になるまで守り続けることを誓います」
仔龍が羽根を広げて飛び立つ。
頭上が陰ったと思ったら、頭に重みを感じた。
親が小さく鳴くと、仔龍も同じように応えた。
剣を放して、恐るおそる両手を頭上に伸ばし、手探りで仔龍を掴んだ。
両手で包んで目の前に下ろす。
仔龍はされるがままになっている。
「彼方を守らせて下さい」
仔龍は、ゆらゆらと尻尾を揺らし、羽根をぱたつかせている。
ただ、ミディアを見つめる双眸には信頼が満ちていた。
(ああ、だから私は頑張れたんだ)
ずっとミディアを見つめていた、漆黒の瞳。
それは、すでに彼女を認めていたからなのだ。
彼女は仔龍の期待に応えられたのだ。
龍は言葉と言うものを持たない。
直接、精神感応で伝え合う。
親龍の思念が概念となって感じられた。
無理に言葉にするのなら「よろしく」といったところか。
「ありがとうございます」
人間は感情を言葉にせずにはいられない。
仔龍からも親と同様の思念が感じられた。
「ミディアです、よろしくお願いします」
続けて
「彼方の名前を教えて?」
暖かく、柔らかな感情がミディアに流れ込んできた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お終い
黒ニコガチャ第9弾より着想
読んでくれてありがとうございますw
読みやすいものーって考えて、イラストあるし黒ガチャ題材にしたらいいかなって安直にw
大抵ラストを先に考えて話を書きます、字数制限あるから。
なのでラストありきでw
小説っていうか、こういうの書くのは好きなんで、月に一話書ければいいかなーと。
Ritsuさんはs小説を書かれるのが好きなのですね^^
また、読ませてくださいね。