WW 2 恋々索然
- カテゴリ:自作小説
- 2010/10/25 23:27:19
長いさらりとした金髪が広がり、空の色に青いワンピースが重なる。
耳に届いた声と言葉。
あの日、彼は恋に落ちた。
世界中で展開されているネット上の仮想世界WW(ワンダーワールド)。
英国で開発されたその世界は、今や英語圏以外にも浸透している。
ここは海を挟んで向かい合う仏国のコミュニティ。
規定の3Dパーツを組み合わせて好みのキャラクターを作成し、この仮想世界で過ごす。
たまに、OC(オリジナルキャラクター)と呼ばれる自作キャラクターも見ることが出来る。
別料金が掛かり、その上あらゆるチェックを潜り抜けたものだけが登録可能な存在だ。
彼女はそんなOCと思われた。
あまりにも他のキャラクターと違いすぎる。
造形も、挙動も。
でも実際はOC等ではなく、この世界を管理するシステムの一部だった。
彼は子供の頃に日本のコミュニティへ頻繁に通っていた。
日本製のアニメーションが好きで、片言の日本語でリアルタイムの情報を得ていた。
仏国ではジャパニメーションを観て育つ子供が圧倒的だ。
そこで彼はアリスに出会った。
大人になった今でも、その時心に生まれた気持ちが消えることなく育っている。
そして、アリスは再び彼の前に現れた。
五年前と変わらない風姿、現実にいるのかと錯覚するような無理のない動き。
黒のクラシカルなロングのワンピース。
沢山の装飾品一つひとつが、彼女の動作に合わせて自然に揺れ動いていた。
相変わらず積んでいる動作プログラムの質の高さが伺える。
アリスは街並みを散策でもしているように、のんびり歩いている。
今日の自分はアリスに話しかけるのに相応しい格好をしているだろうか?
思わずモニターの前で身構える。
この世界では思いおもいの装いで、自由に過ごせるのだ。
それこそ、アニメやゲームの人気キャラクターと同じ格好でいることも。
「アリス」
少年時代とは違うバリトンの音声パターンで話しかける。
アリスに話しかけるのに言語の壁は無い。
日本語コミュニティでも自分の耳とログには仏語が残されていたから。
キャラクターの登録言語全てに同時翻訳対応済みなのだろう。
呼びかけに反応し、アリスは正面の彼に視線を向けた。
微妙な仕草も完璧にこなしている。
「何か用かしら?」
あの時と変わらないオリジナル音声パターン、耳に心地好いメゾソプラノ。
「子供の頃、一度君を見たんだ」
それから、ずっと思い続けているなんておかしいだろうか?
現実には存在しないのに、相手は中身の無いプログラムなのに。
「また会いたいって、ずっと思っていたんだ。」
あれから他所のコミュニティへも随分探しに行った。
でも、ここで会えた。
「やっと会えて嬉しい、会えたら」
会えたら?
「何かしら?」
アリスが純粋な疑問の表情を作る。
パーツとプログラムの使用数が桁違いなのだろう、普通はこんな細やかな表現は再現出来ない。
会えたら、アリスと一緒に過ごしている自分しか想像していなかった。
会えたら、全て上手く行くような気がしていたのだ。
続く言葉が出てこない。
自分はどうしたいんだろう?
「どうしたの?」
微かな笑みを見せて、アリスがこちらに一歩近づいてきた。
自分の隣にいるアリス。
供に語らうアリス。
頭の中だけで展開されていた享楽。
目の前の、モニター越しの現実を捉えた時、それは夢想でしかないことを悟った。
「…会えたことが嬉しい」
それだけ言うのが精一杯だった。
誰も彼女を繋ぎ止める事なんて出来やしない。
風が吹いて、アリスの服や髪をふわりとゆるやかに巻き上げる。
彼の衣服も申し訳程度に翻った、規定パーツの限界だ。
「私にも、会えたら嬉しいと思う人がいるわ」
自分の中の何かが強張る。
(アリスが誰かを選んでる!)
誰も無理だと思ったばかりなのに。
「だから彼方の気持ちが判る」
滑らかに紡がれる言葉が風に乗る。
その何かにヒビが入った気がした。
「時間があれば、何時でも会いに行きたいの」
ヒビ割れが広がっていく。
「でも、あの人も何時かいなくなるのね」
アリスの相貌に陰りのある笑顔が再現される。
決定的に自分の中の何かが砕けた。
終ったんだ、これで。
瞼に残るあの日の光景。
「お願いがあるんだけど」
初めて出会った時の。
「あの塔まで跳んでくれる?」
あの時と同じ、晴れ渡った空。
右手にはエッフェル塔もどきが建っている。
「何故?」
「アリスを初めて見た時も、跳んでいたから」
「そうなの」
「うん、だから、また見たい」
頷きだけで肯定される。
軽い風切り音。
長くさらりとした金髪と黒い衣装が空に映えていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お終い
読んでくれてありがとう!
しかも、遡ってWWも読んでくれたんだ?嬉しいw
2はお気付きの通り修正しましたw
あれ、一気に書いてUPしたけど、自分でも何か違う気がしてたから。
でも、まだ直したいですw
でも、難しいんだったら娯楽性に欠けるので反省しないと駄目ですね。
面白かったそうなので、それは嬉しいんだけど。
今度は何か読みやすいの書いてみます。
それが面白いといいんだけど…。
また、書かれたら読ませてくださいね^^