■近代文藝之研究|研究|歐洲近代の彫刻…(10)
- カテゴリ:その他
- 2010/10/17 18:55:19
■近代文藝之研究|研究|歐洲近代の彫刻を論ずる書 第三(4)
頭には翼を有する所謂ペガサスの帽子を頂いて飛行力を示し、垂れた右の手には劍を提げ、胸に横へた左の手には樂器(?)を持つてゐるが、是等はすべて其の體躯の滑かにすらりとした態度殊には其の脚部のいかにも勁捷といふが如き味を有するのと相合して、機敏、鋭利、巧智といふが如き感を人に與へる。蓋しマーキュリー神の本意に叶つたものであらう。而して之れが最も明らかに出てゐる燒點は顏である。
斯やうな事實は何を意味するか。思ふにこれ選び得て最もクラシシズムの目的を達するに便宜な題材を取つたものではないか。ギリシア民性の中心は其の智識の優秀にあると言はれる。感情の激越を示すよりも智性の支配力を示すところが其の特色であるといふ。從つて其のあらゆる文明にあらはれた風格は冷靜統一、明快といふ如き智的形式である。是等が所謂クラシシズムの本色であることは、言ふまでもなからう。而してマーキュリーは實に智性の權化である。數あるギリシアの神々の中でも、彼れが如きは此の意に於いて特にギリシア的なものであらう。クラシシズムを本意とせるトルワ゛ルゼンが之れを題として成功の作を得たのは自然の事である。
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*註1:頭には翼
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「翼」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/yoku_tsubasa.jpg
*註2:所謂
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註3:ペガサス
原本では「ペタサス」とあったが、ラテン語ではペガスス (Pegasus)、ギリシア語ではペガソス (Πέγασος, Pegasos)、英語ではペガサス (Pegasus)となるため、誤植と判断して改めた。
*註5:横へた
「横」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ou_yoko.jpg
*註6:體躯
「躯」の正字体。「身」+「區」。
*註7:鋭利
「鋭」の旧字体。旁は「兌」。
*註8:マーキュリー神・神々
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註9:選び
「選」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen_erabu.jpg
*註10:達する
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:感情
「情」の正字体。「月」は「円」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
後で見てみよう^^