Nicotto Town



WW 前編

英国発の仮想世界、WW(ワンダーワールド)。
もちろん同国の有名なFTを意識して名付けられた。
今では世界中にユーザーを抱える巨大なネット産業になっている。

最初は英語圏のみで展開されていたが、今や主要と思われる言語毎にコミュニティを分けサポートされている。
まだ同時翻訳等のサービスは実装されていないので、各コミュニティ間の移動は可能だがコミュニケーション自体は本人の力量のみが頼りだ。
そんな中、アジア圏は日本語専用のコミュニティが存在する。

自分の「家」から3Dキャラクターを起動させる。
通常ウェブ上で作動させるキャラクターはアバターと称されるが、この仮想世界では敢て「キャラクター」と呼称させている。
既存のパーツを自由に組み合わせて好みのキャラクターを作成し、装わせ、チャットやゲームに参加し、他者との関係を築いていく。
それがこの仮想世界の基本となる方針だ。

つまらない日常を抜け出し、この世界で過ごす事が最近の最大の楽しみになっている。
彼女もそんなユーザーの一人。
学校では常に早く帰宅してPCを立ち上げる事ばかり考えている。
ここは自分にとって本当の世界じゃない、クラスメイトとも馴染めず、勉強の価値も解らない。
彼女にとって必要なのはもう一つの世界のほうなのだ。

そこでは自分が中心でいられるし、必要とされているし、現実と違ってどもらず話せる。
ログ参照も可能だが、入力した言葉を音声変換する機能が標準装備されているのだ。
もちろん音声も幾つかのパターンから選択可能。
全て平仮名で打ち込んでも構わない。ログ参照されたって自分は見ないから羞恥は感じない。
自由に過ごせる世界へ、今日も食事もそこそこにログインする。
親の小言なんてもう聞こえない。

目一杯小遣いを使って作成した華やかなキャラクターでWWを歩く。
友達は何時もの場所にいるだろう。
そう、ここでは友達だっているのだ。
現実では相手にされないことを忘れさせてくれる存在。

何時もの広場に向かう途中で、見慣れないものを認識する。
他のキャラクターとは一線を画した、違和感を覚える程の存在感。
(OCだ!)
オリジナルキャラクター。
別料金で自作のキャラクターを設定する事もサービスされている。
もちろん登録時にこの世界に及ぼす影響を全てチェックされ、認可されたものだけが登録可能なのだが。
ウイルスを仕込んでいないか、サーバーに掛かる負荷はどの程度なのか。

少女型のOCはネット世界で動いているとは思えない程の滑らかさで歩いていた。
十字路を横切る姿をついつい目で追ってしまう。
造形の整った顔かたちに、バランスの良い体型。
金色の長い髪が自然に毛先だけが揺れている。
赤いミニドレスの裾が軽やかに翻る。
専門的なことは彼女には知る由もないが、サーバーに掛かる負荷を考慮した上で、この動きを再現するプログラムを組むのは並大抵のことではない。

決まりきった動作しかできないキャラクター達の中で、OCは随分浮いていた。
(私に知識があったら、あのOCを乗っ取るのに)
実際、噂ではそういうことが可能だと聞いた事がある。
もちろん運営に知られれば即アカウントを剥奪されるが、乗っ取り自体が目的の者もいる。
だが彼女は義務教育中で、しかもそれ相応の知識も備えているか怪しいくらいなので即物的な行動に出た。
「ねえ ともだちにならない?」
駆け寄って開口一番。
これが彼女にとって友達を得る当たり前の手段なのだ。
けれどもOCは立ち止まらず先を行く。
無視された、と感じると同時に頭に血が上る。
「きこえないの?」

ようやくOCは反応する。
ゆっくり彼女の方を見遣るその動作が、本当に人間のようだ。
瞬きする様子も自然に。
「私?」
音声パターンまでオリジナルだった。
一体、どれだけの技術と金をつぎ込んでいるというのだろう。

「そうよ!」
捕まえた、と思い込んで強気に出る。
「なんでむしするのよ!」

「私の事だと思わなかったから」
合成音とは思えない、肉声のような発音。

「あんた すごいね ぜんぶじぶんでつくったんだ?いいね きれいだね ともだちになろ?」
「私には友達は必要ないの」

とっさに掴みかかろうとして、体当たりする勢いでOCに詰め寄ると、OCは軽く跳躍して屋根の上へと着地した。
ありえない動作プログラムが乗せてある。
様子を見ていた他のキャラクター達もざわつき始める。
「乱暴な事しないでね?」
屋根の上から降る声が語尾でいきなり小さくなったと思ったとたん、OCの姿は消えていた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

後編へ続く

アバター
2010/10/13 21:44
→Luck♪さん
よく書けてる?嬉しいなw
冒頭はもっとキャッチーで読みやすくしたかったんだけど、そこは力量不足でさ。
書くのは得意と言うか好きなんだ。
ほんと、感想ありがと!
モカ先生は、遊びに来るの楽しいって言ってくれるけど、こういうの興味ないみたいで物足りないんだよね。
アバター
2010/10/12 22:59
ふむふむ。
ニコタでも同じような感じの人も居そうだねw
よく書けてるね♪
こうゆうのが得意なのかな?



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