『エミさん、大丈夫ですか？』
後輩のヨウコちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
『え？うん。大丈夫。ちょっと考えてたの』
無理やり笑顔を作って、パソコンに向かった。

とりあえず、この資料は今日中に仕上げよう。来週のプレゼン資料だからね。
うん。がんばっちゃうよー。ワタシは仕事に生きるんだー。
女２８歳　負けられるかぁー！。
ちきしょー。
くそー。

うぅ・・・こういうのがダメだったのかなぁ・・・・はぁ・・・・

『エミさん？エミさーん？』
『ゴメン、ゴメン　あははははは』
『本当に大丈夫ですか？なんか顔色悪いし、目の下にはクマありますよ？』
『お化粧、失敗しちゃったかなー？あはは。あ、うん。その資料はこっちにお願い』

ヨウコちゃんから資料を受け取って、もう一度パソコンのモニターに向かった。

仕事に生きるワタシがちょっとアレなのには訳がある。

訳があるけど、言いたくない。
女にはいえない秘密の一つや二つはあるものなのだ。

『ねぇ、ねぇヨウコ！エミさんどうしたの？なんか荒れてる？』
『エミさんね、彼氏にフラれちゃったのよね』

うぉーい、ヨウコちゃん。
コソコソ話が、しっかり聞こえてるぞぉー！
しかも、フラれたってなんじゃー。
こっちがフッたんだい！

昨日、お母さんに『アンタも不憫ねぇ・・・』とか言われたけど、そんなことは聞こえないやい！

だいたいさ、
デートの２時間遅刻ぐらい　なにさ。
貰ったプレゼントにセンス無いって言い切ったら悪いの？
私の仕事のグチぐらい聞いてくれたっていいじゃん。
男だったら仕事の事で私に甘えるなっつーの。
そんなに電話しなくちゃダメ？１週間に1度で十分じゃん？
メールを５通に一回の返信じゃ少ないのぉ？
私に可愛い格好とか期待しないでよね。
だいたい私に車の話とかしないでよ。わからないんだからさー。
ガーデニングの何が悪いのさー。

極めつけは他に好きな女が出来ただってー？？
もう、信じられない！
最後は知らない女と二股かけられてたなんて！

まぁ・・１ヶ月ぐらい会えてなかったけどさ・・・。

でもさ・・

君とは付き合えないって何さ・・・

癒しが欲しいって意味わかんない・・・・

仕事している君が素敵だって言ってくれたじゃん・・・。


何さ・・・何さ・・・何さーーー。
うぇぇぇぇーーん。

もうね。男なんてこりごりなんだもんね。
私はこのプレゼンを成功させるんだ。
部長からも期待してるぞって言われてるもん。
みてろよー。
別に哀しくないけど！全然哀しくないけど、この哀しみのパワーをプレゼン相手にぶつけてやるんだー。

ギャフンっていわせてやるぅー。



『てかさ、ヨウコも悪い女だよねー』
『なんで？私のどこが悪いのよ』
『先輩の彼氏を略奪する女が悪くないなら何が悪いんだぁ～（笑）』
『略奪なんてしてないよ？エミさんが忙しいの知ってたから、代わりにちょっと相手しただけよ？』
『うわぁ～姑息な女ねぇ～』
『仕事にかまけて彼氏にフォローの一つもしない女が悪くないってことないでしょう？』
『まぁそりゃそうかもしれないけどさぁ・・仮にも先輩の彼氏じゃん？』
『私は相談に乗ってただけよ？まぁ・・ちょっとは女の武器も使ったけどさぁー』
『あははー、やっぱり悪い女じゃんかー』
『えへへへへー』