Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「TONE」2/6

「TONE」


第2話

 この時間だと車より電車のほうが早いはず、と急ぎ足で会場を後にするが……後ろから勢い良く走ってくる足音がふたつ。
 思わず振り向いて見ると、先ほど舞台で3位に入賞していた…あのバイオリンの彼女と伴奏者の彼だった。
「ユウトくんはゆっくり来て。先にタクシー拾っておくから」
と女の方がバイオリンケースを持っているにも関わらず、更にスピードを上げて横を通りすぎて行った。
 相当、急いでいるようだ。
 ユウトと呼ばれていた男の方は走りから歩きに速度を変えて、手には書類。もう片方で携帯電話を持って相手と話し中らしい。
 あの時の茶封筒だ。
 横に並んだ時にチラッと見てみると、横線の描かれた紙の束…楽譜だ。
 つい話し声に聞き耳を立ててしまう。
「今からコレを…って2時間しかないじゃないですかー!?」
 驚きの声にこっちまでびっくりしてしまった。
「とりあえず聞かせてよ……あっ、そこ、もっと早い方が……」
 電話で話をしながら驚いた私に気付いた彼が、苦笑いを浮かべながら軽く頭を下げていく。
「ユウトくん、タクシー捕まえたよ」
と先の方から彼女の声。
「…今からタクシーで向かうけど…間に合わなくても俺のせいじゃないからね…」
 素早く乗りこんだ二人はタクシーで走り去った。
 何だったんだろうと遠ざかる車を目で追いながら、時計に目をやる。
「電車。間に合うか!?」
 自分に呟いて駅に向かってダッシュした。


 ライブハウスに着くと情報はやはり早いらしくもう人盛りが出来ていた。
 その合間をぬってようやく友達の元へ辿りついたのが開場の十五分前。
 なんとか間に合ったと一息。
 夏至が近い季節、6時過ぎでもまだ日は高く暑い。
 途中で買った缶ジュースを友達と分けあい時間まで待った。
 所々からいろんな会話が聞こえてくる。
 噂話が殆どだ。
 キーボードのユウって本当にいるのかなぁ
 顔は映ってなかったけどプロモには出てたよね
 そんなのいくらでも代役できるじゃん
 5月のアルバム発売で行なわれたライブ、全員揃ってたよ
 インディーズ時代を知ってる友達が、ずっとユウはいたって言ってるよ
 ザワザワザワと騒がしい中、友達と耳を澄ませて情報収集。
 やっぱりみんなの関心事は正体不明のキーボード。
「Fly Viewのライブは初めてだもんね」
「生声聞けるのが楽しみ」
「やっぱ“ユウ”の顔も見なきゃ」
「絶対、前まで走るぞ」
 開場時間になりライブハウスのスタッフが入口のドアを開ける。
 一斉に押し寄せる人に押し潰されるようにして入りこむと、舞台目指しての争奪戦。
 危機せまる迫力の方々には負けたけど、肉眼でしっかりと顔が見えそうな位置だからよしとしよう。
 ドキドキしながら出番を待つ。
 始まるまでの時間が長く感じられる。
 こんなに人が集まって、今更ガセネタでしたなんてオチはしないでよ、と祈りつつ楽器の機材が所狭しと並べられたステージを見つめる。
 時を刻む秒針のリズムが皆の心の中のカウントダウン。

 そして、一斉に照明が消えた。

                                    【続く】

第2話でーす。

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2010/09/02 19:39
お、あきさんの新作小説っ。
1話から読ませて頂きましたb楽しみです♪




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