Nicotto Town


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北の少年 外伝 雨の日の出来事 完結編

カルヴァドス…まだゲットならず(;;)
その焦りが、この話に昇華したのかなw?
酒飲みの幽霊話、お粗末さまでした。
さあ、本編も頑張らないとwww



「そもそも、トーナの蒸留酒は、豊かなの山紫水明な土地がはぐぐむ上質の水と実りから生まれる大陸一の旨みと香りが最高で…」
謎の老人の蒸留酒讃歌は、尽きる事が無いようだった。
すっかり毒気を抜かれたジェンとカイルは、老人の話を遮る気力も無
くなってうんざりした様子でその話を聞いていた。
先に我慢出来なくなったのは、『酒』のお預けを喰らってしまったカイルだった。
(ジェン、このじーさんが酒好きなんはよう解った。人間やないのもよう解った。危険がなさそうなんもよう解った。せやから、だまらした方がええで。ようは、この林檎酒を、自分にも呑ませんかいといいたいんやろう?)
カイルの心の声はかなりうんざりした様子で、この老人の話を止められるのなら林檎酒を全部やってもかまわないと言いかねない。
だが、ジェンはそうではない。
まだ、一口しか飲んでいない。
懐かしいトーナの酒をたった一口であきらめて、こんな化け物もどきにくれてやる気はなかった。
今のジェンは、話し続ける老人に負けず劣らす、この林檎酒に対する執着心が強くなっていた。
腰を据えて呑み掛けたのを邪魔され、かなり頭にきていたのだ。
「ご老人、貴方のお話はよく解った」
地を這うような低い声で、ジェンは目前の老人に話しかけた。
その声を聞いてカイルの背筋の毛が総毛だった。
(ジェン、おまえ怒ったんか?)
おそるおそるカイルが聞くと、ジェンが答えを返してきた。
(いいや、別に)
冷静で事務的な返事・・・つまりは怒っているということだ。
「そんなにトーナの林檎酒がおすきなら差し上げよう」
地を這うような声のまま、ジェンは微笑を浮かべた。
ただし、灰色の目には鋼の輝きがあった。
カイルはその顔を見て、半歩後ろへ下がった。
(ジェン~~)
本気だ、限りなく本気で怒っている。
楽しみを邪魔されて、完全にキレてしまったようだ。
カイルの背中を詰めたい汗が流れ落ちた。
一方、自分の話に酔っていた老人は、ジェンの言葉に身を乗り出してきた。
炯炯と光る水色の目が、喜びの輝いている。
「おお、有難い。嬢ちゃん、恩にきるぞ」
「ただし、私と飲み比べをして勝ったならだが、それでよろしいかな?」
ジェンは花のような、それは華やかな笑顔を浮かべた。
カイルは今度こそ、ぞーっとした。
ジェンは、この人外の老人を本気で酔い潰すつもりだ。
老人は喜色を浮かべて、ジェンの言葉に飛びついた。
「かまわんさ。どちらにしても呑めるじゃないか」
相手の酒に対する執着心も、かなりのものらしい。
「では、お先に、ご老体」
女戦士と老騎士の奇妙な酒盛りは、降りしきる夜の雨の音をつまみにいつまでも続いたのである。

(ジェン、お前、何をしたか解ってるか?)
酔いつぶれて寝込んだ老騎士を前にして、カイルは呆れかえった様子で自分の相棒を見上げた。
強いトーナの林檎酒は、素焼きの壷に残りわずかだ。
「ああ、解っているさ。化け物殺しで相手を倒したまでだ」
(ゆーれいを酔い潰すなんて、お前の方が化けもんやで・・・)
「それがどうした?」
満足げな微笑を浮かべ、ジェンはカイルを見下ろした。
鋼の輝きを帯びていた瞳は、今は夕暮れの雲の色だ。
(つくづく、俺の相棒はおかしなやっちゃ・・・まあ、そこがおもろいんやけどな)
眠り込んだ老騎士の姿は、いつの間にか消え失せていた。
満足いくまで呑めたから、きっと自分の体が眠る場所へ還っていったのだろう。
「さて、残り少なくなったが、酒盛り再開といくか」
ジェンは朗らかにそういって、カイルの皿に林檎酒の3杯目をついでやった。
(まあ、ええか)
芳醇な香りに誘われ、カイルは再び小皿の前に座りなおした。
ジェンも銀の酒杯に酒をそそぐ。
「酒好きの騎士に乾杯」
いつまでも降り続く夜の雨に向かって酒杯を掲げ、ジェンは一気に酒を煽った。
雨は静かに静かに、朝まで降り続いた。





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