■近代文藝之研究｜研究｜歐洲近代の繪畫を論ず　八(３)

印象派の畫になれば、モネー(C.Monet)が得意の海洋研究の強い色彩でも、ラファーヱリ(J.F.Raffaelli)が瀟洒な水邊の色彩でも、全面の上に一つの調子の明になるのは云ふまでもないが、それですら、なほ多分に内容の局部的圖象に負ふ所がある。モネーのあの圖の色調が傳へる意義は、海洋といふ暗示によつて始めて適當に生かされる。然るにホヰツスラー等の新派は是れをすら邪道と稱せざるを得ない羽目になつて居る。是れよりも更に一歩を進めて、殆ど全く局部的事相を拔き捨てやうとしたのが、此の派の畫である。斯くの如くして片足は自然主義からすらも跨ぎながら、しかも尚ほ他の片足は自然の秘密に分け入るといふ意味で自然の岸に殘つて居る。印象派では、足だけはまだ双方ともに自然主義に立てゐるといふ關係を、ホヰツスラーは最低度まで減殺しやうとして片足立ちになつた。されば彼れが跨いてゐる他の片方の岸は何であらうか。



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＊註１：印象派の畫・此の派の畫
「畫」の俗字体(一説に本字とも)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ga_kaku.jpg

＊註２：モネー
クロード・モネ(Claude Monet／1840年〜1926年)。フランスの印象派画家。原本では「C.J.Monet」あったが正しいフルネームは「Oscar-Claude Monet」のようだ。
[作品参照]⇒http://commons.wikimedia.org/wiki/Claude_Monet

＊註３：海洋
「海」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kai_umi.jpg

＊註４：強い
「強」の俗字。旁が「口」＋「虫」。

＊註５：色彩
「彩」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sai_irodori.jpg

＊註６：ラファーヱリ
ジャン＝フランソワ・ラファエリ(Jean-Francois Raffaelli／1850年〜1924年)のこと。
[作品参照]⇒http://www.artrenewal.org/pages/artist.php?artistid=393

＊註７：全面・全く
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg

＊註８：多分に・分け入る
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

＊註９：内容
「内」の旧字体。「冂(＝エンガマエ)」＋「入」。

＊註10：負ふ所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

＊註11：暗示
「暗」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/an_kurai.jpg

＊註12：適當
「適」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註13：邪道
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註14：羽目
「羽」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/u_hane.jpg

＊註15：更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

＊註16：進めて
「進」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註17：尚ほ
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。

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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月（滝太郎）著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1