Nicotto Town


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北の少年 砂海編 34

このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣(メタモルフ)の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。

長文なので嫌なんです~の方はスルー推奨^^;


身支度を整えたケニスがラルムの待つ居間へ入っていくと、ラルムは立ち上がって一礼した。
ラルムは、治療魔法士をいっしょに連れてきていた。
彼も立ち上がってケニスに向かい、深く一礼する。
人狼と戦ったラルムの顔にも、疲労の影が伺える。
それでも、姿勢を正したラルムの表情は明るい。
彼の表情から、瀕死の重傷を負ったジェンの快復は本当なのだと思われた。
「おはよう、ラルム。昨晩は大変だったね。奥さんを助けてくれてありがとう。お二人とも座ってください。今、花茶を持ってこさせますから」
「ありがとうございます。いえ、当たり前の事したまでです。奥様にお怪我がなくて何よりでした」
3人はそれぞれの席にすわって落ち着いてから、おもむろにケニスが話し出した。
「奥さんはあなたやジェンのおかげで、かすり傷ひとつありませんよ。ところでジェンが快復したと聞きましたが・・・?」
ケニスの問いに、ラルムは嬉しそうな笑顔で答えた。
「はい、疲れてはいるようですが、もう食事かできるほど快復しています」
「・・・ほう、それはまた。治療魔法士殿の腕がよほど優れていたのですね」
ケニスはわざとそういって、二人の反応を見比べた。
ラルムは自分のぞばにいる治療魔法士をちらりと見て、なんともいえない複雑な表情をしている。
どうしてジェンがあそこまで快復したのかわからないが、治療魔法士の腕のおかげだとは思っていないようだ。
治療魔法士の方は、微かに首を横にふって苦笑いを浮かべた。
彼自身、ジェンが快復したのは、ロヴの魔法のせいだとよく理解している。
自分の治療だけなら、ひょっとしたら彼女は死んでいたかも知れないのだ。
だからなんと答えればいいのか、今は判断がつかなかった。
二人の意味ありげな沈黙をさもありなんと思いつつ、ケニスは話を続けた。
「どうしました?お二方。なにか、私は変なことをいいましたかな」
「いえ、とんでもありません。ジェンのことは、直に彼女と会ってお話されるのが一番だと思います」
ラルムはあわててそう答えて、もう一度、治療魔法士の様子を伺った。
治療魔法士はケニスの顔を見返して、本当のことを話しだした。
自分の実力を偽わるのは、彼のプライドが許さなかった。
それに、自分だけ秘密を持っているのは、どうにも居心地が悪い。
「ジェンの病状が快復したのは、私の治療のせいではありません。ジェン本人の体力と、ロヴのおかげです。彼は自覚していませんが、魔法使いの素質があります。修行を重ねれば歴史に残る魔法使いになれると私は思います」
やはりそうか、ロヴの本名がロウ・ヴェインでロウ・ゼオンの王族だとしたら納得がいく、内心そう考えつつ、ケニスは驚きの表情をしてみせた。
「何ですと、あのロヴが魔法使いだというのですか?」
「ええ。間違いありません。私の目の前で無意識に治癒魔法を使いましたから。ジェンが死ぬと思って、夢中だったようですが」
ラルムは治療魔法士の言葉を聞いて、こちらはほんとうに驚いた様子だった。
信じられないという思いが、ありありとその表情から読み取れた。
(これは、ジェンとロヴ、両者から話を聞く必要がありそうですね)
そう考えつつ、ケニスは話し続けた。
「そうですか、解りました。このことは一応内密にして、後で話し合うとして、我々だけの胸にしまっておきましょう。さて、これからのことですが・・・」
ケニスはわざと話題を変えて、二人を目下の悩みから解放してやった。
ラルムと治療魔法士はあからさまにほっとして、ケニスの話題に耳をかたむけた。

ジェンの長い話を聞き終えたロヴは、大きな決心をしていた。
必ず自分の祖国、ロウ・ゼオン王国に行くこと。
ロウ・ゼオンで自分の両親がどんふうに亡くなったのか、自分で調べること。
ロウ・ゼオンの国が、今どんな状態なのか知ること。
そして、祖父ハランを殺した相手を探し出すこと。
その人物を探し出してどうしたいのか、今はわからない。
とにかく相手に聞いてみたかった。
どうして自分の命を狙うのか…と。
今までは、ただロウ・ゼオンの国へいってみたいという、漠然とした望みだったが、今は確固たる目標となった。
どんな目にあっても、必ずたどり着いてみせる。
彼の強い決意と意志は、鋼のような灰色の瞳となって、ジェンを見つめていた。
ジェンはその瞳の色をみて、ロヴという少年がいなくなって、ロヴという若者が今、ここに現れた瞬間に立ち会ったことを悟った。
少年と知りあって共に旅をしたのは、わずか10日にも満たない。
素直さと邪気のなさは変わりないだろうが、あの素直な北の少年がもういないのかと思うと、一抹の寂しさを覚えるのだった。
踊る猪亭で出会った、あの無邪気な少年には二度と会えないのだ。
「…そうか。解った。伝言を伝えることができて、ほんとうに良かった」
黄昏時の雲の色の目で、ジェンはそう呟いた。

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2010/06/21 21:17
たかりんさま

詩的な感想、なんだかもったいないような面映い気分です。
ありがとうございます。
書いていて、こんなときがほんとうに嬉しい。
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2010/06/21 20:04
人と人のつながりって年月じゃないんだよね~。
10日の間に少年は、ずっと年上で普段は男まさりな女性を愛したし、
その女性は少年が男に変わる瞬間を母のような気持ちで見守ったんだよね。

その一抹のさびしさ分かるな~
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2010/06/10 20:50
momokaさま
少年はいつかは大人になるものですからね^^;
さ、頑張って修行して立派な魔法使いになってもらわないとね。
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2010/06/10 20:34
ロヴが一人前の若者になって

ジェンもうれしいようなー悲しいような><

でも立派な魔法使いになって

皆を助ける若者になってほしいです(*^_^*)
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2010/06/10 19:06
だあくさま
ケニスさんは、正義の味方の越後屋設定です(?)w

ロヴの成長、書ききれるんかいな…正念場でしょうか?
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2010/06/10 12:30
ケニスさん やり手ですね~
上手く自分の知りたい情報を 得てしまうなんて・・・  すごいです!!
そして ロヴ少年よ・・・ さよーならー;; 



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