■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝(35)
- カテゴリ:その他
- 2010/06/02 12:10:56
■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝 第七(5)
畫家はすなはち易きに就いて眼を俯しにせしめ、感情を隱して其の光りを消し、以て僅かに其の神々しさを保たんとせるなり。一切の感情を活かして、直ちに神に合わせんとするは、積極たり。之れを消して神に合わせんとするは、消極たり。眼を伏せて感情の窓を閉づるものは、消極に行けるにあらずや。また伏し目は常に悲哀憂愁を意味す、孤獨なり、寂寞なり、小弱なり、逡巡なり。前に目的とすべき光明なく、希望なく、また之れに向かつて猛進すべき英氣なし。悲觀的たり。
此の如き意義を有する第一、第二期のマドンナの眼は、第三期に入りて、深夜の星影よりもあざやかに見開かれたり。其の瞳は下を見ずして正面に向かへり。霧とかゝりし愁の雲は消ゆると共に、星の瞳は燦爛として麗しき光りを放ち來たりぬ。天地始めて光明あり、希望あり、生氣あり。生きたる感情も此れより輝き出づるよ。其の感情を直ちに導いて、永劫に入らしむるも、此の眼ならずや。美術史家リュブケはおもへらく、ラファエロは、此の圖によりて自家の最も深遠なる思想と最も美しき人とを結合せんとせるかと。
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*註1:畫家はすなはち
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:感情
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註3:消し・消極・消ゆる
「消」の旧字体。旁の「ナオガシラ」は「小」。
*註4:僅か
「僅」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kin_wazuka.jpg
*註5:神々しさ・神に
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註6:小弱
「弱」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyaku_yowai.jpg
*註7:逡巡
「巡」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註8:前に
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
*註9:希望
「望」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bou.jpg
*註10:猛進
「進」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:導いて
「導」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註12:美術史家
「史」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_humi.jpg
*註13:リュブケ
ヴィルヘルム・リュプケ(Wilhelm Lubke/1826年〜1893年)のこと。ドイツの美術史家。主著『OUTLINES OF THE HISTORY OF ART』。
*註14:深遠
「遠」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
天使世界では、午前0時は朝なんですね。
お勉強になります♪“φ(*・д・。)カリカリッ!
「おはよう」っていうよ。。
ですって~