Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「薔薇の下に」

【手紙】

 届けられた郵便物に、淡いピンク色の封筒が混じっているのに気付いた。
 表書きの筆跡は、女性のものと思われる、細い流麗な書体。ご丁寧に花の香りまで染み込ませてある。
 裏返して差し出し人の名を見るが、表書きと同じ筆跡で知らない女の名前が書いてある。古風な赤い封蝋には、薔薇を象った紋章が捺されている。
 封筒の中身を外から触って確かめると。どうやら厚紙で作ったカードが入っている様子だ。

 他の郵便物と一緒にして自室へ戻る。

 デスクの上を片付けて、郵便物をざっと仕分ける。返事が必要なもの、捨て置いていいもの、スケジュール調整が必要なもの、等々…

 最後に、例のカードが残った。
 二つ折りの淡いピンクの――差し出し人は『薔薇色の』と言いたいだろうが――カードの表には何の変哲もなく『お誕生日おめでとう』などと書かれている。だが、私の誕生日は三か月前だ。
 カードを開いてみたが、特に何の仕掛けも施されていないように思われる。文面にも何ら変わった事は書かれていない。斜めに光を当ててみたり、指先で撫でてみても、ただの時期外れの誕生日カードのようにしか見えない。

 だが、なにか仕掛けがあるはずなのだ。

 カードを調べるのはいったん置いて、封筒の方を調べにかかる。

 カードよりも更に淡い色。中身が透けて見えないように黒いラシャ紙で内張りがしてある。目視で外見を確かめた後、薄刃のナイフを使って丁寧に封筒を解体する。封筒の内側にも、内張りのラシャ紙にも、何か書かれたりはしていない。念のため透かしてみたりもしたのだが。

 溜め息をついて再びカードに取り組む。
 改めて手にとって、ふと違和感を覚える。なぜわざわざ、紙テープで縁取られているのか?カード本体と色が変えてあるのならば、単なる装飾、という可能性もあるが、わざわざ色を合わせている。
 ナイフのに刃先を使って、ていねいにテープを剥がす。
 ――ビンゴ。
 カードは二枚の紙が張り合わされたものだった。更にカードを解体する。
 二枚の厚紙の間に、折りたたんだ薄葉紙が挟まれていた。念のために糊づけされた内側を見ると、薔薇の蕾が型押しされている。「読後焼却」の意味だ。薄葉紙を破らないように注意深く開き、三回読んで内容を頭に叩き込んだ後、指示通り焼却する。

 …まったく、異様に用心深いくせに、ロマンチストな上司を持つと、苦労させられる。
 俺は、仕事に必要な『ブツ』を調達しに町へ出た。ついでに食事も済ましとこう。期限がこれほど近いと、今夜は徹夜仕事になりそうだ。

#日記広場:自作小説

アバター
2010/06/03 19:38
…あ、「注意深い」じゃなくて「用心深い」の間違いだ。
元のテキストファイルでは直した(筈な)のに。

訂正しときます。
アバター
2010/06/02 23:20
注意深い上司ということは、部下が指示書を見つけると
確信してたわけだ。
メッセージカードに香水を染み込ませてる上司...男だったらイヤだなぁ。



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