■近代文藝之研究|序に代へて人生觀上の…(5)
- カテゴリ:その他
- 2009/02/08 17:32:50
■近代文藝之研究|序に代へて人生觀上の自然主義を論ず 三(2)
まだ一つある。私は寧ろ情負けをする性質である。先方の事情にすぐ安値な同情を寄せて、氣の毒だ、かわいさうだと思ふ。それが動機で普通道徳の道を歩んで居る場合も多い。そして是れが本當の道徳だとも思つた。併し段々種々の世故に遭遇すると共に、飜つて考へると、其の同情も、あらゆる意味で自分に近いものだけ濃厚になるのがたしかな事實である。して見ると是れも餘り大きな事は言へなくなる。同情する自分と同情される他者との矛盾が、死ぬか生きるかの境まで來ると、そろ/\本體を暴露して來はしないか。先づ多くの場合に自分が生きる。よつぽど濃密の關係で自分と他者と轉倒してゐるくらゐの場合に、言はゞ病的に自分が死ぬる。又は極局身後の不名譽の苦痛といふやうなものを想像して自分が死ぬることもある。所詮同情の底にも自己はあるやうに思はれてならない。斯んな風で同情道徳の色彩も變つて了つた。
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*註1:情負け・事情・同情
「情」の正字体。「月」が「円」。
「負」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hu_makeru.jpg
*註2:普通・道徳・道を歩んで
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「徳」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/toku.jpg
*註3:遭遇
「遭」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「遇」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註4:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註5:近い
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註6:他者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註7:境まで
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg
*註8:そろ/\
「/\」は踊り字・くの字点。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji.jpg
*註9:又は
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg
*註10:所詮
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg。
「詮」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen.jpg
*註11:色彩
「彩」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sai_irodori.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
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■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
(2014/03/30/初校)