このお話は、友人のリクエストにより、篠原烏童さんの作品から共生獣（メタモルフ）の設定をお借りしています。ファンの方で不快に思われましたら、お詫びいたします。

長文なので嫌なんです～の方はスルー推奨＾＾；

感想のコメントはとても励みになりますです＾＾ｖ




わき腹を切り裂かれたジェンは、そのまま体制を崩して水中に落下した。
愛用の長剣は、獣人の肩に突き刺さったままだ。
今までは、メルガ達に人狼の注意が向かないよう、全力でもって戦いを挑んでいた。
彼女が敵に対抗できるのは、速度と身の軽さと今まで培ってきた傭兵としての経験だけだ。
戦いに全神経と精神力を集中させ、相手を何とか押さえ込んでいた。
その集中をそがれた一瞬に、小さな隙ができてしまった。
ジェンは丸腰で、身を守る鎧もなく無防備な状態だった。
その上負傷している。
状況は、極めて不利になってしまった。
落下の衝撃で意識を失ったのか、水中のジェンは身動き一つしなかった。
（しもた！声をかけるんが早過ぎた！）
大きな豹ぐらいの大きさの、砂海の周辺に住む狩猟猫に変身したカイルは、自分の犯した失敗を悔やんだ。
ジェンが負傷したのは、自分が声をかけてしまったからだ。
情報源として人狼を殺してはならないと思うあまり、戦いに集中している彼女に声をかけるなんて、相棒としては失格である。
（焦りは禁物やってゆうのにな）
この失敗を挽回するのは、今の状況を何とかするしかなかった。
まずは、ジェンのぞばへ行かなければならない。
カイルは痛さにもだえる獣人を睨みつつ、水中に落下したジェンの方へ動き出した

一方ラルムは、肩を抱き合って逃げ出そうとしていたメルガ達を保護していた。
二人とも沐浴用の薄物を身にまとっているだけだし、全身水にぬれて冷え切っていた。
気丈なメルガも、人狼に襲われたショックで青ざめている。
さすがに見慣れたラルムの姿を目にして、メルガは安堵の表彰を浮かべた。
「ああ、ラルム。ジェンを助けてあげて･･･」
「はい、それより奥様、早くここから離れてください」
ラルムは女性二人をもう一人の傭兵に任せて、自らの体を盾にして獣人の前に立った。
水中に落下したジェンは、そのままの姿勢で動く様子はなかった。
（意識を失ったか、まずいな）
「ヨクモワレヲキズツケタナ！」
獣人は軋む声で咆哮し、肩に刺さった剣を抜き取ってその場に捨てさった。
怒りで両目が真っ赤になり、闇の中で熾火のように、ちらちらと不気味に光っていた。
「オマエモシネ！！」
獣人の鋭い爪が、ラルムに向かって振り下ろされた。
ラルムはその攻撃を、両手で構えた剣で受け止める。
その攻撃の重さに、彼の両腕が悲鳴を上げる。
歯を食いしばってそれをに耐えて、後ろに下がって次の攻撃に備える。
なんとしても、ジェンのそばへ行かなければ。
ラルムは隙を伺いつつ、獣人の攻撃をかわし続けた。

(ジェン、聞こえるか、ジェン！）
カイルはジェンの心に必死に呼びかけながら、やっと彼女のそばにたどり着いた。
呼びかけに対するジェンの答えはまったくない。
水中に全身を沈めたジェンは、完全に意識を失っていた。
その周りには、鉄臭い血の香りが濃厚に漂っていた。
出血も、ひどいらしい。
とにかく、水中から体を移動させなければならない。
このままでは窒息してしまう。
カイルはジェンの着ている薄物の襟を噛んで、ゆっくりと彼女の顔を水面に持ち上げた。
そのまま、獣人とラルムが戦っている反対側の方へ移動していく。
（カイ…ルか？）
何とか、湯船の外へジェンの体を引き摺りあげたころ、カイルの心にかすかなジェンの声が聞こえてきた。
カイルは安堵のあまり、泣きそうな声で答えた。
（ジェン～～ごめんやで～俺のせいや…ほんまに…）
（どうなって…いる？）
ジェンの問いはあくまでも実際的だった。
泣くのも、悔やむのも、戦いの後。
ジェンは。、あくまでも戦士で在り、傭兵だった
（今は、ラルムがあいつの相手をしてる。奥さんたちはここから｣抜け出したで！）
（そうか、それなら安心だ…）
話しているうちに、ジェンの声はだんだんとはっきりしてきた。
意識がしっかりしてきたのだろう。
ぐったりしていた体も、ぴくりと動き始めた。
やがて閉じていた目を開けて、覗き込んでいるカイルの目と視線を合わせた。
「いくぞ、カイル。あの獣を捕らえる」
（わかったで、ジェン）
半身を起こしたジェンは、ラルムと戦う大きな獣人の後姿を視界に捕らえた。