■近代文藝之研究｜研究｜囚はれたる文藝　第二(２)

「いかに東海の客、夫の一群は、青き道をこそ驅けぬけんとはするらし。其の先頭にある寛衣の紳士等は、希臘のプラトーン及びアリストテレースなり。中にもプラトーンは、殆んど半脚を赤き道に踏み入れんとしては、また引き戻す。手に携ふる所は『フヰードラス』の卷か『シムポジアム』の卷か、はた『レパブリック』の卷なるべし。最上絶對の郷を忘じ得ず、夢の如くかすかに之れを追慕して、憧れ仰ぐの情に堪へずと説きしプラトニック、ラヴの心根は、赤き道行く人に近からずや。されど其の最上絶對のエロスは、遂に智識によりて近づくべき理體たるを免れざりき。此の人もまた、理により、智識によつて闇黒を照破せんとするならずや。アリストテレースに至つては、其の淨化《カタルシス》の説、一點の別彩となつて彼れの詩論を麗しくするにも拘はらず、思想方式の調子、手障り、みな赤き道に上るべき人とも覺えず。智識、理性を以て萬象を照らさんとするに於いては、他の哲學者流と異なるところなし。



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＊註１：青き
「青」の正字体。「月」は「円」。

＊註２：道
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註３：半脚
「半」の旧字体。
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＊註４：戻す
「戻」の旧字体。
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＊註５：所
「所」の旧字体。
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＊註６：絶對
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」＋「巴」。
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＊註７：郷
「郷」の正字体。
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＊註８：追慕
「追」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註９：情に堪へず
「情」の正字体。「月」は「円」。

＊註10：説きし・淨化《カタルシス》の説
「説」の旧字体。旁は「兌」。

＊註11：近からず
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註12：遂に
「遂」の旧字体。
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＊註13：智識
「識」の正字体。
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＊註14：免れざりき
「免」の正字体。
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＊註15：闇黒
「黒」の旧字体。
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＊註16：別彩
「彩」の旧字体。
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＊註17：手障り
「障」の正字体。
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＊註18：哲學者流
「者」の正字体。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
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■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月（滝太郎）著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1