連載 仮想空間のカオス13
- カテゴリ:自作小説
- 2010/03/18 16:14:19
うたろうが入院した日から一週間、翔は塾を休んで、病院に通った。
うたろうの顔を見るためであったけど、もう一つ大事な訓練があったから。
自力で食べた餌を消化できなくなった鳥を生かすためには流動食を与えるしかない。のどの奥のそのうという
内臓に直接注入するのだ。間違えば、呼吸器官に流動食をいれかねないし、その失敗は羽太郎の死である。
どうしても、流動食の訓練は必要であった。
二日ほど羽太郎の流動食の様子を観察した。三日目、体力の回復してきた羽太郎に翔は初めて流動食を
流し込んだ。慣れない手つきの中であばれる羽太郎のくちばしをこじあけ、チューブを差し込む手が震えた。
間違えば即死だ。躊躇が心にしのびこむ。しかし、翔の手つきを見ていた獣医は的確だった。
「動きをとめない。途中で作業を躊躇するほど、羽太郎君は苦しむんだよ」
「すばやくして。苦痛を少なくしたいなら」
決して器用とはいえない翔だったが必死さが上達を早めた。羽太郎に流動食をを流し込む一連の作業は日々上達し、比例するように羽太郎の体力も回復した。
この一週間で翔から事情をきいた美優は、とても残念がったけれど、翔に
「学校なんて違ったって友達だよ?」
と言ってくれた。翔はすごく嬉しかった。
一週間後。羽太郎は、退院して、翔の部屋についに戻ってきた。鳥かごの中は高い場所の止まり木は外され、介護鳥仕様の配置になっていた。
「ゲゲッ」
羽太郎は抗議したが、残念ながらその要求は却下された。
その日、美優は羽太郎の退院祝いと翔の塾復帰をかねて、翔の部屋に遊びにきていた。
翔が流動食を羽太郎に与える様子は、美優にはかなりショッキングな光景だった。
「毎日そんなふうにするの?」
「毎日っていうか一日5回か6回」
「えー!?」
「鳥は飛ぶための構造になってるから、たくさんエネルギーが必要でいっぱい餌食べるんだ。でも飛ぶのにからだは軽い方がいいから、消化時間がすごく短い。だからまた食べる。食べ続けなきゃならない運命なんだよ、鳥って」
「ふ、ふーん…大変なんだね…」
美優にはちょっと理解しかねて、そう返事するのが精一杯だった。
「さて、一週間ぶりに塾行くか!」
そっと羽太郎をかごに戻すと、翔は美優に向かって笑った。
「コース変更したから、いっしょに帰れなくなるけど行くときは、これからもよろしくね」
「了解。さて、行きますか」
二人は塾にでかけるために立ち上がった。
翔は顔をひきしめた。闘わねばならぬ敵は、ラスボス級が二つ同時なのだから。
って言ってると思います^^
思わず「頑張れ(^^)!」とPCの前でこぶしを握りました…!!
今後の展開が楽しみです✿