仮想空間のカオス9
- カテゴリ:自作小説
- 2010/03/12 16:14:51
美優は携帯を手に取ると、メールでなく、通話を選んだ。
翔は事の重大さをわかっていない!その想いは、電話がつながると爆発した。
「久しぶ…」
翔の声をさえぎって美優は、携帯に向かって叫んだ。
「早く、退会しなよっ。メールも無視して!」
いきなり耳に飛び込んできた美優の怒鳴り声に翔はたじろいだ。
「え…。ごめん。そうしようとは思っている。でも…」
「でももへったくれもないわよ、そんな悠長な時間なんてないの!
翔、あんた、完全にターゲットにされているのよ!ネットストーカーですまないかもしれないーエスカレートしたら、リアルで探し出されてしまうのだって否定できない、ねぇそういう
状況まできてるってことを、まったく理解してないのよ。
今すぐ!今すぐ退会処理して、しばらくネットにアクセスしない方がいい!」
「…ねぇ、美優怒ってるのはわかるけど、謝るけど…」
「全然わかってないっ!私、さっきfに会ったんだから!!」
「え!?」
fと言ったとたん、再び強い恐怖が美優を襲い、涙があふれてきた。怒りと恐怖を翔に叩きつける美優の声が震えた。
自分を心配してくれているというのが、ストレートに翔の心に響く。
「ごめん…ほんとにごめん。いろいろあったから、メールも返信したまま、何もしていなくて、できなくて」
謝りながら翔も涙がぼろぼろこぼれてきた。翔のせいで怖い思いをしながら、翔を心配して怒ってくれている美優の優しさが、申し訳なかった。
美優も少し落ち着きを取り戻した。そして、怒りの反動は美優を落ち込ませた。
「怒鳴ってごめん。取り乱しちゃった…。でも、お願いだから退会処理して。翔、あんたの身に何かあったら、私…、タウンに誘った私が悪いんだ…」
しばし、二人は無言だった。しばらくして沈黙を破ったのは翔だった。
「今日中に絶対、退会する。これからパソコン立ち上げて処理する。心配かけてごめんね。終わったら連絡する」
「うん、わかった」
「じゃあ、切るね」
翔は携帯を置くと、心を決めてパソコンを開いた。もう途中でやめない。美優に怖い想いをさせたままにしておけない。パソコンの起動音がすると、きなこが飛んできた。まるで励ますように、翔とパソコンが立ち上がるのを見つめてくれてるような気がした。
「ありがとう」
「ビョッ」
翔がきなこにお礼を言うと、どいいたしましてと、きなこが答えた。
1か月ぶりにパソコンを立ち上げた。美優の想いときなこが背中をおしてくれている。見守っていてくれる。だから、私も退会処理をちゃんとできる、うん、大丈夫、言い聞かせながらタウンにログインした。
たった1カ月なのに、まるで浦島太郎になったような気分になる。知らない服を来たアバター達が以前とちょっと違う様子のタウンを行き交っていた。タウンが常に変化しているのを実感しながら、きなこ@のサイトを開いた。足跡をみて戦慄がはしる。美優のアバター繭音@の足跡をかき消す勢いで、その足跡が主張していた。
f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f f…
美優が言ってた通りだ。尋常でない物を感じる。
でも、最初の恐怖が去ると、なぜか暖かい感情が心に広がっていった。オカメのきなこも、ケーブルのいたずらを忘れたように、画面に魅入っている。
f-あなたは誰?
翔は無意識にfのサイトを開いていた。
fのプロフィールは空欄だった。紹介欄に初期服のままの一般的な男性アバターだけが表示されていた。なのに、翔の心に絶え間なく優しい風が流れ込み、誘われるまま、fの部屋へ入っていく。
fの部屋が画面に映しだされた。
「これって…」
美優が言っていた通りだった。きなこ@の部屋を懸命に模倣した配置がそこにあった。ただ一つを除いては。きなこ@の部屋にもそれは配置してあった。
でも、家具の後ろにそれは隠したのだ。
数ヶ月前がよみがえる。
「せめて仮想空間の中では、ほこりをかぶせようね、ふふふ」
「ぴょぴょっ」
うたろうと相談して、棚の後ろに隠したそれが、fの部屋の真ん中に置いてあった。
翔ちゃん…それは彼女に語りかけていた…
ー鳥かごー
それは、うたろうと翔しか知らない秘密のアイテム…うたろう?うたろうなの?
「うたろう」ー「羽太郎」―「羽」―「feather」―「f」
翔の中で、カチッとボタンがはまった。信じられなかった、でも間違いない。うたろうだ。うたろうがここにいるのだ。
うたろう…
うたろう!
うたろうーーーーっ!!
ご指摘、感謝。ちょっと手直ししてみました
バッチ当てたみたいな感じ?(^^;
じゃないかw いきなり退会ってなっちゃうトコは解説欲しいかも。
うたろう!! ;;