Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


NHKへの抗議

 今年のNHKの大河ドラマ「龍馬伝」は政商岩崎弥太郎が語り手となって物語が展開していく。第一回の冒頭は、日本を代表する有力財界人への夢を果たした岩崎に一人の記者が質問をするエピソード(おそらく実話ではないだろう)で始まっている。
 
 「坂本龍馬を知っていますか?」

 頃は失念したが、明治初期にあっては龍馬の名は広く人の口に膾炙していなかった。ブームのように彼の名が叫ばれ始めたのは明治20年近くになってからである。

 「龍馬? ふん、あいつは人たらしじゃ!」


 龍馬のことを書くつもりではない。このときの岩崎の服装は有力人に相応しいものだったはずだ。


 
 こうして物語の緒が切られた。画面は明治維新前の土佐藩に切り替わる。次から次へと後に名を残す人々が登場していく。そして、その頃の岩崎弥太郎が現れたとき、21世紀の日本のあちこちで悲鳴ともつかない声があがったに違いない。

 ばっちぃのだ。きちゃないのだ。髪はボウボウ、顔は汚れ放題、前歯には黒い染みのそろい踏み。身に着けているのは粗末を通り越したボロボロの着物で前がはだけている。
 弥太郎の家がまた凄い。家の外と内の区別がつかないくらいの土埃と雑多さ。歩くたびにモワモワと立ちのぼる土けむりの中での生活ぶり。


 21世紀の日本の各地に住む三菱系企業の社員がこぞってNHKに対して抗議した(少しオーバー)。
 「我が社興隆の始祖たる岩崎翁を、何が面白くてかくもきちゃなく登場させるのか!」

 天下のNHKは眉ひとつ動かさず平然と答えた。

 「しばらくこのドラマを見守っていてください。大丈夫です。どうぞこの後の展開を楽しみにしてください」

 それはその場しのぎの言葉ではなかった。4日前の放送で、岩崎の快進撃がやっと始まった。獄中でひらめきを得て、新たな道を見つけた彼の服装はごく普通のものであったが、当初の衝撃的な姿を(いやというほど)刻まれた我々の目には、それはコペルニクス的転回的に清潔な装いに見えたのだ。


 空の上からこの成り行きを見ていた岩崎弥太郎。『抗議する暇あらば、豆の一粒でも売りさばかんかい!』

 龍馬はん、食われてます。





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