Nicotto Town


YUKIEのきまぐれ日和


天使を見たよ

「どーせ私なんか何やったってダメなんだよーだ!」
「叶希!そんなひねくれた態度じゃダメよ!そう思わない?」
「思っているならこんなこと口にしないよ!」
「叶希!」
「フンッ」
(バタンッ!)
 と、私は怒って部屋の戸を閉めた。

 
 私はイライラしている。勉強が思うようにうまくいかないのだ。やっているつもりなのに成績は思うように伸びないし、やらなきゃいけないのはわかっているけど、勉強なんて大ッキライだし。この前の模擬試験の結果、私は志望大学の判定がすごく悪かった。お母さんが、「これじゃ~ね~。」とか「もっと努力しなきゃ。」とか「集中してやってる様子もないしね~。」とかブツブツ言うもんだから、頭にきて
「私なんか努力できないダメ人間だしね。」
 
と言ったのが始まりで、激しい言い争いになって、挙句の果てがこれ・・・・・・。 お母さんが私を想っていっているのはわかってる。でも、理屈でそんな簡単に気持ちは押さえられるモンじゃない。  ちょっとしてから、お母さんが部屋に入ってきた。
「叶希、がんばりなさい。」
 
さっきまであんなに怒っていたくせに、結構優しい声で言ってきた。それが癪に障って、ますますイライラした。
「うるせえんだよ!出て行けよババァ!」
 
と叫んでしまった。(ハッ)と我に返ると、お母さんは泣きそうな顔をしている。「わかったわよ・・・・・・。お母さんもう知らないから!」
 涙声で怒鳴ってお母さんは出て行った。

 
その途端、目から涙がこぼれてきた。
 何が悔しいのか、何が悲しいのか、頭の中がぐちゃぐちゃになって、よくわからなくなった。
「もう、勉強なんかやめちゃおうかな・・・・・・。」
 
と、独り言を言い出した。
「そうだよねぇ。どーせ努力なんかできやしないんだしぃ、趣味に没頭しているほうが楽しいよね。世の中勉強だけじゃないモンね~。アッハハハハハハ!」
 
 と、泣きながら狂ったように笑い出した。
と、その時、突然左胸が痛み出した。
「痛ッ、痛ッ、いたたたたた!」
 
あまりの痛さにその場でうずくまった。だんだん、気が遠くなってきた。



 気がつくと、周りが自分の部屋じゃない星空のようになっていた。
「な、何?ここ・・・・・・。」
「どうしてそんなこと言うの!」
(え?)
 
どこからか声が聞こえてきた。
 見ると、目の前に変なものがいる。
親指くらいの大きさの丸い顔、点目、頭に小さな輪、台形の体に鉛筆で書いたような細い手足、背中に小さな羽。
「な、何なの?あんた一体―」
「キミにはボクはどう見えているの?」
「え?どうって・・・・・・。なんか、天・・・・・・使?」
「キミはボクにそういう姿を与えたんだね。」
 
 この子が何を言っているのかよくわからない。なんなの?姿を与えたって?
「わからないって顔だね。当然だね。キミがボクを心から追い出そうとしたから、わからなくなっちゃったんだよ!」
「はぁ?」
「キミ、本当はあんなこと思っていないはずだよ。現にこうしてボクがいるんだから。」
「あんなことって・・・・・・。」
「キミは大丈夫だよ!きっとできるよ!辛くても頑張ろうよ!」
 
と、天使は私の胸に寄り添ってきた。すると、さっきまでやきもきしていた気持ちがスーッと楽になっていくのを感じた。
「もう、これ以上自分にウソをついてちゃダメだよ。キミ、壊れちゃいそうだよ・・・・・・・。」


(あ・・・・・・)
 思い出した。
 辛い時、苦しい時、何度も投げ出しそうになったけど、その度に自分の中で言っていたんだ。今この天使がいった言葉と、まったく同じことを。
 そうだよ、私いつも自分を励ましていたんだ。自分の中に、自分を励ます、すっごく小さい自分がいたんだ。
「やっと、思い出してくれたんだね。ボクのこと。」
「うん、私・・・・・・なんだね?」
「ウン!」
 
天使は笑顔でうなずくと、私の体の中に入っていった。
 


 
気がつくと、もとの自分の部屋にいた。机の上で眠ってしまったようだ。
 ふっと、そばに置いてあった本に目が行った。
 
その本は、私の大好きな絵本だった。田村みえさんという人が書いた絵本で、(TERUTERUTENSHI)というかわいい天使と、読者を励ます言葉が書いてある。
「そうか、そうだったんだ。」
(キミは大丈夫だよ!きっとできるよ!辛くても頑張ろうよ!)
 
あの時の声が、再び聞こえてきた。まるで、本の表紙の天使が自分に話しかけているみたいだった。


 私は絵本を本棚にしまうと、明日の授業にある、歴史の教科書とノートを取り出し、教科書を読み始めた。





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