■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義(5)
- カテゴリ:その他
- 2010/03/01 00:04:50
■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義 (5)
ラオコーンとは今伊太利羅馬の法王殿附屬の一博物館にある彫刻像の名で、ラオコーンといふトロイの僧が、親子三人大蛇に取り卷かれて將に死なんとする斷末間の苦惱を現はしたもの、よく寫眞版になつて我邦にも來てゐる。此の彫刻の出來た年代は或は西洋紀元前五世紀ともいひ或は同一世紀だともいふが、蓋し後説が正しいやうである。即ち世は希臘の末、將に羅馬時代に移らんとする頃で作者はローデヰアン派といつて、小亞細亞沖のローヅ島に根據を有する一派の美術家が三人の合作、十六世紀にチチュスの温泉場から掘り出された。
而して世界近世の最大彫刻家といはれるミケランゼロは當時之れを見て驚嘆のあまり「藝術の不思議」と叫んだといふ。思ふにラオコーン像は、此の大彫刻家が一叫の批評によつて先づ世の注意力を吸收し得たこと幾ばくであらうか。言はゞ此の一句の批評は今や此の作品の威嚴の源となつてゐるのである。
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*註1:ラオコーンとは
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:彫刻像・此の彫刻・最大彫刻家・此の大彫刻家
「刻」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kizamu.jpg
*註3:トロイの僧
「僧」の旧字体。「曽」が「曾」。
*註4:親子三人
「親」の正字体。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shin_oya.jpg
*註5:我邦
「邦」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hou_kuni.jpg
*註6:西洋紀元前五世紀・同一世紀・十六世紀
「紀」の俗字体(か?)。旁の「己」が「已」。
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
*註7:後説
「説」の旧字体。旁は「兌」。
*註8:作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註9:世界近世
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註10:
「嘆」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tan.jpg
*註11:叫んだといふ
「叫」の俗字。「口」+「斗」。
*註12:一叫の批評・一句の批評
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg
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