【『侵されざる者』(ダイアモンド)】(承前)
- カテゴリ:自作小説
- 2008/10/17 19:18:34
「「天使」に「聖母」?自分たちの事を何様だと思っていたやら」
ファイルをつかみ上げた小さな手の持ち主がそうつぶやく。
ペンライトが揺れて、辺りの瓦礫の山を照らす。時折、止まってはまた大きく振れる。しばらくあたりをさまよった後、小さな音を立てて、明かりが消える。
瓦礫の隙間からはいる薄明かりの中で、小柄な人影が動いている。小さな手では持て余すような分厚いファイルを袋に入れて背負うと、慎重な足取りでその部屋――かつて「所長室」と呼ばれていた空間――を出ていく。
体に合わない大きなリュックサックを背負った少女が、こじんまりとしたアパートの階段を上っていく。
「ただいまぁ。…何か飲むものなぁい?」
「お帰り。場所はわかった?」
出迎えた女性が、少女からリュックを受け取り、そのまま台所へ向かった。冷蔵庫から冷やした緑茶をコップに注ぎ、テーブルの上に置くと、少女はそれを一息で飲み干した。
「うん。だけど、バスが廃線になってたよ。時間がかかったのは、そのせい。…何か、食べるものは?」
「…歩いたの?」
グラスに茶を注ぎ足した女性が、驚いたような声で言った。少女の足で往復できるような距離ではないからだ。
「行きはね。帰りは、娘さんを駅に迎えに行くっていうおばさんが乗せてってくれた。…田舎の人って、親切ね」
あどけない顔で、にっこり笑う。
「その分、詮索されるけどね。…パンしかないけど、いい?」
少女がうなずくと、女性は買い物袋をひっくり返して、テーブルの上に菓子パンの小山を作る。
「…何、これ?」
「パート、決めてきた。…というか、親切な不動産屋さんに紹介された。明日から5時起きだわ」
そう言って女性が肩をすくめる。
「適当に言い訳して断っちゃえばよかったのに」
パンの袋を引き裂きながら少女が言う。
「そう思ったんだけど、パン屋さん、困ってたみたいだから。とりあえず、十日間だけって」
「困ってたからって……あ、これ、おいしい。」
「でしょ?それもあって、まあいいかなって…」
「…まあいいわ。早起きするのは、わたしじゃなくて、お母さんだから。…それより」
少女がパンをくわえながら、テーブルの横に置いてあったリュックを膝の上に置いた。
「お母さんが言ってた資料、無かったんだけど」
引き込まれます。
この続きの予定は…
完成の暁にはオンデマンド印刷しなければ
文章力がありますね^^
見習わせていただきますッ!!