午後6時。
小さい子がいないので、夕食時間は遅い我が家では
この時間に買い物に出かけることも珍しくはない。

ん～、
最近6時にお刺身値引きしてないこともあるし
今日はどうしよっかな～。
あるものでご飯作るかな～。
あ、
アクロンが切れてたっけ。
これは買わないとな～。

冷蔵庫をあける。
チルドルームを覗く。
ん？
豚バラ肉の塊もある。
先にこっちを角煮にするかぁ。

私の献立の決め方なんてこんなものである。

取り出した肉をごろんとした片に切り分け、軽く塩コショウを振る。
フライパンを温め、表面に焼き目が付くまで炒めると
鍋に移し、煮込み始めた。
そして薬味の野菜を探す。


生姜がない。
ニンニクがない。
ネギは散らすぐらいしかない。

・・・・・・・・・・・・・

慌ててバッグをつかむと、お嬢に声をかけながら玄関に急ぐ。
「ちょっと足りないもの買ってくるー。」
ちょっとどころではなく、足りていない。


必要なものだけ買えば、30分ぐらいで戻れる。
下煮もまだもうちょい時間をかけていいぐらいの余裕。

仕事帰りの車も増えている時間帯。
運良くするするとスーパーにたどり着く。
「あ、アクロンだったな。」
などと思いだしたものもカゴに入れていくうちに
何故かカゴいっぱいの買い物になってしまう。
予定外のものの方が多い。
まぁ、いつものことだ。

そして、この日のもっと運の良いことに
レジが空いている。
支払いをしようとしている人がいるレジを見つけ
素早くカゴを置く。
レジにいたのは若いお兄ちゃんだった。
レジにいるお兄ちゃんは、
手際のいい人と悪い人が極端な気がする、
などとちらっと思いながら、手元のバッグを見つめる。

レジでは支払いがもたつかないように
財布を事前に出しておくのがポリシーだ。
バッグに目を落とすと、
財布や手帳などを入れているところのファスナーが半開きになっている。
記憶の糸が嫌な予感を手繰り寄せる。

前の人はもうすぐ支払いを終える。
ファスナーを開けてみた。



その瞬間、
走馬灯のように今日のお昼の光景がフラッシュバックする。



チャイムをならすヤクルトさん。

他愛ない話をして、ヤクルト400ライトとこんぶを買う私。

財布をちょっとテーブルに置いて、冷蔵庫にヤクルトをしまう私。







財布がない。
ちらっとカゴに目をやる。
今なら踵を返して商品を戻すこともまだ可能だ。
でも、てんこもりに買っている。
レジのお兄ちゃんが
「いらっしゃいませ」と私に声をかける。
嫌な汗がてのひらににじむ。

もう、戻れない。
仕方ない・・・・。


「あ、あのっ、財布忘れたみたいなんで、カウンターにこれ
　置いといていいですか？」




結局カゴはレジで預かってくれ、急いで家まで財布を取りに
車を走らせる。免許もそういえば財布の中だ。
ああ、免許不携帯状態・・・。
家に程近くなった交差点の信号待ち中。
携帯が鳴る。
旦那からだ。
まだ信号は変わらない。出てみる。
「おい、お前今どこにいるんだ？」
「え？買い物だけど、今戻るとこ。」
いつもの帰るコールとは違う第一声にちょっと焦る。
「買い物？今日はもう帰ってるんだが、ここに財布あるぞ？」


なんてこった、旦那にもばれた。
あとで満点大笑いされたのは、心の中に深くしまっておこう。